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第2話 制作物ノ背後ニハ戦略アリ 2/2
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❚ 戦略をさぐる2 リーズジェネレイション(ナーチャリング)

 

 「でも、パーソナライズというのなら、私のにも、コータのにも、名前が入っていておかしくない?」

エミーがそう問いかけるとコータはそれに応じます。

「それは3つのステップ・・・かも」

コータはホワイトボードに3つのステップのモデル図を描き出しました。

「まだにわか知識なんだけど・・・」

「え!いつの間に!」


 

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 にわか知識などと言いながら、スラスラとモデル図を描くコータを見ていて、驚きもあったのですが、何より、「自分は、知っていたはずのこのモデルを思いつかなかった」と、エミーは悔しく思いました。

 あるいは、こんな言い方もできるかもしれない。「こうした理論めいた話って現実とは乖離した世界だと思っていた。でもコータは素直に受け取って、現実とつなげてしまっている・・・

そしてコータは淡々と、そのモデル図についての説明をしだします。


 

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 「まず、顧客はフロントエンドとバックエンド、二つに分けられる。フロントエンドとバックエンドの違いは1円でも支払っていただいたかどうか。これが大きな壁なんだな。新規の営業でもここが一番難しい。しかし、そこにいきつくまでには、最初に見込客を発見しないといけないから、とにかく足蹴(あしげ)に周り、通い続ける。ネットでも同じだね、最初にあちこちリスティングなりリタゲしたりで。

 そして、フロントエンドとバックエンドを今度は細分化して一般客、見込客、顧客と位置付ける。この図にはないけど、見込客は商品によっては見込客と優良見込客に分かれ、顧客は顧客と優良顧客と細分化される・・・。」

 ちなみに、僕は新規担当と既存の顧客担当と両方経験があるんだ。

 『人事て恐ろしいわ~・・・(こんな強烈なの送りこんで来て・・・。コータなんてマーケにはまったく不向きだと思っていたけど、人事はちゃんと適性を見ている?)』、エミーは両手の手のひらを頬にあててつぶやきました。

「何?どうしたのエミー?」

「いや、なんでもない、なんでもない、ひとり言」

 コータは、いつもと様子が違うエミーを不思議に思いましたが、何事もなかったかのように続けます。
「それで、この一般客、見込客、顧客とそれぞれ次にステップにつなげるものとして、3つの戦略がある。それが頭文字がRのレスポンス、リピート、リテンション。レスポンスからリテンションまでもっていく一連の過程をリーズジェネレイション(見込客醸成)、そしてリテンションはいわゆるCRM

 コータの説明を続けていると、それを遮るように、エミーは言いました。

「CRM(Customer Relationship Managementの略)は顧客維持ではなくて、顧客管理では?管理の方が、維持よりも意味が広いような。管理にはいろんな意味が含まれるように思う。データベースのこととか・・・。でも維持と言ってしまうと、プロモーションをやるだけっていう、私のイメージ」

「ごめん、マーケティングの先輩に申し訳ないけど、僕はマネジメントを管理と捉えてしまうのはなんか寂しいと思うんだ。管理って僕の語感だと、『規格外を作らない』、みたいなイメージ。生産管理とか製品管理ならそれでいいと思うんだ。規格外はあってはならないから。でもさ、顧客ってどうだろう?変化していくものだし、育てていくものだし、いろんなタイプの人がいるだろうし・・・ほら、僕自身、赤坂のるるではビールしか飲まなかったのに日本酒も飲むのようになったように。それに、なんか管理って顧客に対して失礼じゃない?」

『何この熱く語ってるのは??それも10年やってる私に。でも、こんな疑問、考えたこともなかった』

 コータが言う、「顧客は変化する」というのには、エミーは衝撃でした。エミーはこうまでは捉えておらず、「このセグメント(性別、年代、購入履歴などでターゲットや顧客を分類すること)の人たちはこうだ」と一度定義したら、そのままその定義を変えることもありませんでした。

 でも確かに、エミーは変化するコータを見ていた。

 「顧客は変化する・・・とすると、リーズジェネレイションていうのも単なる顧客のステップではなくて、見込客が変化していく姿てこと?

 エミーはマーケティング歴10年の経験、プロ意識が強い自分を忘れて、思わずコータにきいてしまいました。

「そう、リーズていうのは見込客のこと、ジェネレイトは生成するとか、より良く開発されていくとかそんな感じ。だから、リーズジェネレイションのことを、見込客醸成ていう日本語をあてはめるのはその通りかな、と。とすると、CRMも、そのまま直訳するのではなくて、顧客醸成の方が、僕は適切なような気がする・・・てさ、何でベテランのエミーが僕に聞くの?」

「いや、まあ・・・」『ベテランていうか、プロと言って欲しいんだけど』

 

 エミーもコータも深呼吸をしながら、それぞれ違う意味で息を継ぎます。エミーは自分のプライドがこの一瞬で瓦解したような、しかし、これまでどこかつかえていたものが吹っ切れたような心地良さを感じていました。しかし、素人であるはずのコータに敗れたような気持ちも。

『違う、心地良くなんかない!』と、どこか悔しさも過ります。

 コータは単純に疲れた、という感じにしか見えず、しかし彼はそのうちに吹っ切れたように、

「ていう感じなんだけど、間違ってない?」

「間違ってるも何も、私なんかよりもずっと理解しているかもしれない」

「はぁ・・・」

 コータはエミーの言葉に拍子抜けしました。

顧客は変化する、それと、顧客醸成の方がいいんじゃないか?って、そんなこと考えたこともなかったら、ちょっと衝撃だった」

『エミーがこんなに謙る(へりくだる)って病気にでもなったのか?』

 エミーはコータに詰め寄ります。

「それはそうと、こんな短期間で、いつ勉強したの?どんな本で?どこで?」

 しばらく沈黙があって、エミーが切り出しました。

「全然っ、コータっぽくないんだけど」

『やっぱりエミーだ・・・』「失礼なこと言うなぁ。まあ、その通りだけどさ。なんかさー、ストンと落ちたんだよねー。自分の経験がシンプルに整理されているようで。だから、勉強しているって感覚はなかったんだ」

「ふーん」『全然っ、私の質問に答えてないし。ま、いいか。━━ そう言えば、私もこの10年できっと変化しているよね?━━なるほど、だったら顧客だって変化していくわけか』

 エミーは心の中でそう納得としていたのですが、

「エミー、君は昔っから全然っ、変わってないよ!」

そんなコータの言葉が聴こえつつ、エミーは再びテーブルの上のダイレクトメールが視界に入りました。


 

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今日のところはここまで。

第3話(執筆中)では、3つのSTEPのモデル図をベースに、ふたりに届いたものを分析してみます。

ポイントは、単にクリエイティブの分析をするのではなく、

制作物背後ニハ、戦略アリ


 

仕事の仲間などと、ディスカッション!

チャレンジ課題3

下記のものはそれぞれ、エミーとコータに届いたものです。

それぞれの特徴が書かれてあります。

その特徴は、どんなところに現れていますか?

今度は3つのSTEPを意識してみてください。

- Response - Repeat - Retention -

エミーに届いたものの特徴

下図はクリックすると拡大されます。

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  • レスポンスをしたら、メールが何度か来て、その後でダイレクトメールが来た。
  • 掲載される写真は追加するパーツの写真、メカニックなものばかり。
  • パーソナライズがなされている。
  • 関心事に動画制作を選んだ成果、動画制作にまつわる話題が多い。
  • 割引特典が強調されている。
コータに届いたものの特徴

下図はクリックすると拡大されます。

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  • レスポンスをしたら、メールが何度か来て、その後でダイレクトメールが来た。
  • 掲載される写真はビジネスマン。色具合、バリエーションを強調、しかし実物とはやや違う。(実物はもう少しくすんだ感じだった)
  • 利用シーンの写真が多い。家で仕事をしているシーン、動画を楽しんでいるシーン。
  • ​こちらも割引特典がついている。
  • 購入時にはアドバイスをしてくれるらしい。
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